首都高速道路日本橋区間地下化事業は、首都高速道路(以下、首都高)の都心環状線のうち、日本橋川上空を通る約1.8kmの区間を地下化する事業です。首都高速道路株式会社では、都心環状線の交通機能を確保しつつ、まちづくりと連携しながら整備を進めています。現在の高架橋を地下化することで、名橋「日本橋」の上に広がる空を取り戻すとともに、水辺を生かした新たなまちづくりが進められています。
事業周知のための取り組みの一つが、2022年から首都高速道路株式会社が毎年8月に開催している「日本橋親子現場見学会」です。2026年度からは一般社団法人日本橋リバーウォークエリアマネジメントと連携して開催しており、地域の小学生と保護者を対象に、首都高の歴史や首都高日本橋区間地下化事業について楽しみながら学び、関心を深めてもらうことを目的としています。
今回は、2026年8月4日に開催された見学会の様子をレポートするとともに、開催に込めた想いや地域との関わりについて、首都高速道路株式会社の小山拓哉さん、一般社団法人日本橋リバーウォークエリアマネジメント事務局の吉元朋子さんにお話を伺いました。
日本橋の未来をつくる「首都高速道路日本橋区間地下化事業」とは
1964年の東京オリンピック開催に向けて整備が進められた首都高速道路。その一部として、日本橋川上空を走る都心環状線の日本橋周辺区間は1963年に開通し、現在では開通から60年以上が経過しています。1日約10万台の車が利用する重要な交通インフラとして機能する一方、長年にわたり多くの交通を支えてきたことで構造物の老朽化が進み、将来にわたって安全に利用し続けるためには、高架橋の更新が必要となっています。
また、日本橋周辺では、高速道路の誕生によって変化した景観を見直し、「日本橋の空を取り戻したい」という思いも寄せられてきました。こうした背景のもと、安全性の確保と景観再生の両立を目指して進められているのが「首都高速道路日本橋区間地下化事業」です。
本事業では、神田橋JCTから江戸橋JCTまでの約1.8kmを地下ルートで整備します。地下ルートの完成は2035年度、高架橋の撤去工事は2040年度の完了を予定しています。
2035年度の地下ルート完成後、2040年度には現在の高架橋(写真左)の撤去も完了し、日本橋川沿いを歩いて楽しめる空間が整備される予定(※写真右のパースはイメージであり、実際の計画と異なります)
見て、聞いて、体験する。親子で学ぶ日本橋の未来
首都高日本橋区間地下化事業を知ってもらうため、首都高速道路株式会社が2022年から毎年開催している「日本橋親子現場見学会」。地域に根ざした広報活動の一環として、中央区内の小学生とその保護者を対象に実施されています。
開催の背景について、首都高速道路株式会社の小山拓哉さんはこう話します。
「首都高の歴史や事業内容を直接一般の方にお伝えする機会が少なかったため、体験しながら知ってもらう機会をつくりたいと考えました。事業が完成する2040年度には、現在の小学生が社会の第一線で活躍する世代になります。そのときに『あのとき、事業のことを見たり聞いたりしたな』と思い出したり、日本橋に愛着を持ってもらえたりしたらという思いもあります」
毎回多くの応募が寄せられる本イベント。今回は、抽選で選ばれた約140人の親子が参加しました。夏休み期間の開催ということもあり、見学内容を自由研究のテーマにする子供もいると言います。当日は飲み物や冷却タオルを用意するなど、暑さ対策や安全面にも配慮しながら進められました。
参加者は日本橋船着場からクルーズ船へ乗り、日本橋川を巡りながら地下化事業の現場を船上から見学。鎌倉橋や常盤橋、江戸橋ジャンクションなどを巡ります。
船上では、クイズ形式で首都高の歴史や首都高日本橋区間地下化事業について紹介。
地下化工事に活用されているトンネルを掘り進める仕組みや、ルート上にある文化財など周辺環境への影響を抑えるため、ハーモニカマシンと呼ばれる特殊な機械を使って工事を進めていることなども説明されました。子供たちは元気よくクイズに答えながら、熱心に説明を聞いていました。
「屋根のないクルーズ船で日本橋川を巡りながら、首都高の高架や歴史ある橋を間近で見られること、現在進行形の工事の様子を見られることは、非常に貴重な機会です。なかでも常盤橋門跡付近では、江戸城の城門跡として残る石垣と、その周辺に立ち並ぶ高層ビル群を一度に見ることができます。歴史と現在が共存する日本橋ならではの景色を楽しんでいただけることも、このイベントの魅力です」
未来の日本橋を体感できるプレゼンテーション拠点「VISTA」
船を降りた参加者が向かったのは、2025年6月に開設された、日本橋リバーウォークのプレゼンテーション拠点「VISTA」。
日本橋リバーウォークとは、日本橋川周辺で進行する5つの大規模再開発区域とその周辺一帯を指すエリア名称で、首都高の地下化による水辺の再生や、歩行者ネットワークの整備を一体的に進めています。
ここ、「VISTA」では、映像や模型を使い、首都高の地下化や周辺の再開発事業など、さまざまな取り組みによって変わる日本橋川沿いの将来の街の姿を紹介しています。
「VISTA」をプログラムに組み込んだ理由について、一般社団法人日本橋リバーウォークエリアマネジメント事務局の吉元さんは次のように話します。
「首都高地下化事業とまちづくりが一体となって、日本橋に空と川がひらかれ、新たな街へと生まれ変わっていくことを知っていただきたいという思いで、『VISTA』を立ち上げました。子供たちに次の時代のワクワクする未来を思い描いてもらい、現在の工事風景の先に『あの未来が待っているんだ』と感じてもらえたらと思っています」
当日はスライドによる説明の後、自由内覧の時間も設けられ、なかには「船から見たあの場所が、将来あんな風に変わるんだね」と親子で話し合う姿も見られました。
「イベントを通して、街の人たちや周辺の方々がどう感じているのか、子供たちがどのような視点を持っているのかを直接知ることができたのは、私たちにとっても貴重な機会でした。今後もこうした機会を通じて、地域の方々と直接関われる場を増やしていきたいと思っています」と吉元さん。
見学会に参加した子供たちからも、未来の日本橋への期待の声が聞かれました。
「日本橋のいろいろなことや、未来の姿まで知ることができて楽しかったです。首都高がなくなって青空が見えるようになることや、たくさんの橋が撤去されることは知りませんでした。トンネルをつくるために川の底にふたをして持ち上げることも初めて知って驚きました。完成するのが楽しみです」
街の未来を伝え、日本橋への想いをつなぐ
再開発そのものに、街が大きく変わってしまうという印象を持つ人もいます。だからこそ、日本橋リバーウォークでは、変化の先にある未来の姿を伝えていくことに力を入れています。
「私たちは、日本橋の歴史や文化を大切に受け継ぎながら、地域の皆さんと連携してまちづくりを進めていること、そして、街が生まれ変わった先には、これまでの日本橋らしさを受け継ぎながら、新たな魅力を持つ日本橋が待っていることを発信していきたいと思っています。街に寄せられる意見や、子供たちの声を受け止めながら、今後のイベントづくりにも生かしていきたいですね」
VISTAは事前予約制で、どなたでも見学が可能です。日本橋の未来の姿を知る場として、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
https://www.shutoko.jp/ss/nihonbashi-tikaka/vista/
(クレジット)
写真/チバユウコ 取材・文/河西みのり