再開発が進む日本橋・八重洲エリア。「日本橋リバーウォーク」では様々な新しい街づくりの取り組みが交わります。
その街のシンボルが、五街道(東海道・中山道・甲州街道・日光街道・奥州街道)の起点である「日本橋」です。毎年7月の第4日曜日には、地域の人々が力を合わせて橋を磨く「名橋『日本橋』橋洗い(以下、橋洗い)」が行われています。
半世紀以上続くこの行事には、歴史ある街を守り、未来へ受け継いでいこうという思いが込められています。
今回は、2026年7月26日(日)に開催された橋洗いの様子をレポートするとともに、その歴史や背景、地域とのつながりについて、橋洗いを主催する名橋「日本橋」保存会副会長・会長代行の福島深雪さん、日本橋学生工房・高田悠真(「高」ははしごだか)さんにお話を伺いました。
(プロフィール)
福島深雪さん
名橋「日本橋」保存会副会長・会長代行。地域の人々が育んできた橋を大切にする思いを受け継ぎ、橋洗いをはじめとする保存会の活動に取り組んでいる
(プロフィール)
高田悠真さん
日本橋学生工房代表。学生ならではの視点で、日本橋のまちづくりや地域活動に携わる
街のシンボルを守るために始まった、名橋「日本橋」保存会の歩み
名橋「日本橋」保存会が発足したのは1968(昭和43)年。1964年の東京オリンピック開催に合わせて首都高速道路が日本橋の上に整備されたことをきっかけに、地域の有志によって設立されました。
「高速道路の建設は国を挙げた事業でしたので、反対する人はほとんどいませんでした。でも、完成した後に改めて日本橋を見ると、街のシンボルが覆われて日陰になってしまっていたのです。『なんとかしなくては』という思いはありましたが、完成したばかりでしたから、すぐに移設や撤去という話にはなりません。そこで、まずは多くの方に今の日本橋を知っていただき、少しでも良い状態で後世につないでいこうという思いで保存会の活動は始まったと聞いています」と福島さんは語ります。
設立当初は年に一度の総会や、清掃活動が中心でしたが、日本橋エリアへの注目が高まるにつれ、活動の幅も広がっていきました。現在は春の日本橋まつりや夏の橋洗い、秋のイベントなど、年間を通じて地域を盛り上げるさまざまな取り組みを行っています。
保存会の活動には、「日本橋の魅力や今の姿を全国へ発信する」という思いが込められています。その一例が、箱根駅伝復路の誘致です。平成11(1999)年の第75回大会では、日本橋改築88周年記念事業の一環として、保存会が関東学生陸上競技連盟や警視庁へ働きかけを行い、日本橋を通るコースが実現しました。
「保存会の活動を通じて日本橋を知った人が、街のファンとなってくださるケースも少なくありません。その象徴ともいえるのが、首都高速道路の地下化に向けた署名活動です。全国から44万2,000人の署名が集まり、日本橋を応援してくださる方の多さを表しているのだと思います」
1,800人で磨き上げる、年に一度の恒例行事
日本橋「橋洗い」が始まったのは1971(昭和46)年。現在まで50年以上受け継がれ、2026年で54回目を迎えました。
当日は、町会・企業・地域団体をはじめとする保存会の会員約1,800人が集結。道路を一時通行止めにし、参加者がデッキブラシを手に橋を磨き上げます。団体ごとに揃いの半纏を身にまとった人々が一斉に作業する姿は、まさに圧巻の光景です。
磨き上げた後は、国交省の散水車による放水で全体を洗い流し、最後には、消防少年団がはしご車に乗り込み、高所にある首都高速道路の銘板を清掃。仕上げの消防団による放水も、橋洗いの見どころの一つです。
「普段、歩行者は歩道部分しか通ることができませんが、この日だけは会員が車道部分にも立ち入り、中央に埋め込まれた道路元標も磨きながら、感謝の気持ちを込めて1年間の汚れを落とします」と福島さん。
橋洗いには、環境にも配慮した洗剤を使用しています。当初は家庭用洗剤を使っていましたが、「橋洗いの後に、川へ流れた洗剤が環境に影響を与えるのではないか」という指摘を受けたことから、メーカーの協力のもと、有用微生物を使った橋洗い専用の液体洗剤を開発。その後、一般向けの商品としても販売されるようになりました。
さらに、有用微生物には水質浄化の効果があることから、保存会の呼びかけで、2005年から日本橋川の浄化活動が始まります。
また、橋洗いをはじめ、新しい世代として日本橋に携わっているのが「日本橋学生工房」です。2002年度の発足以来、日本橋の再開発を学生の視点から考え、地域の人々との交流や実践を通して、これからの日本橋のあり方を提案してきました。
現在代表を務める高田さんは、建築を学ぶ中で日本橋学生工房を知り、活動に加わりました。
「現在は16名のメンバーで活動しています。街づくりに興味がある人や、お祭りに参加してみたいという気持ちで入る学生が多いのですが、活動を続けるうちに、日本橋の皆さんの温かさや人柄に惹かれていきます。地元とは別に、もう一つの故郷が日本橋にあるような感覚を持つ学生も多いですね」と話します。
そんな高田さんは、昨年初めて橋洗いに参加し、強く印象に残ったといいます。
「たくさんの方がブラシを手に、丁寧に日本橋を磨く姿は、ほかではなかなか見られない光景です。仕上げに消防車で放水を行うのですが、子どもたちが目を輝かせて集まってくる様子を見て、街全体が一つになっているように感じました」
歴史を受け継ぎ、新たな魅力を育む日本橋へ
多くの人々によって受け継がれてきた街の魅力を、次世代へ受け継ぐために必要なこととは何か。現在感じている課題や、今後の日本橋への思いをお二人に伺いました。
高田さんが課題として感じているのは、若い世代に街の魅力が十分に届いていないことです。「日本橋は長い歴史がある老舗のお店が多く、価格帯も含めて少し敷居が高く感じられるかもしれません。でも、そうしたお店に勇気を出して足を運んで、一つ何かを買ってみたら、それがお気に入りになることもあると思うのです。この街で生まれたものには、それぞれに込められた思いや背景があり、そうした価値を知ることは、自分自身のアイデンティティにもつながるのではないでしょうか。
僕たち『日本橋学生工房』は、学生だけでなくたくさんの方に日本橋を知ってもらい、実際に足を運ぶきっかけをつくりたいという思いで活動をしてきました。街の敷居を下げて、カジュアルな場所に変えるのではなく、歴史や価値を大切にしながら、裾野を広げていきたいです」
福島さんも、若い世代を含めた新たなファンづくりの重要性を語ります。
「個人的には、デートスポットになってほしくて……そのためにも、若いファンを増やすことは重要だと思っています。街のハード面を変えることは簡単ではありませんが、“気持ち”の部分に働きかけることで、さらに人が集まる空間づくりにつながるのではないかと思っています。」
その思いを形にした取り組みの一つが、2026年2月に期間限定で開催された「日本橋船着場サロン」です。日本橋船着場の閑散期を活用し、停泊中の船をカフェとして利用。水辺の特別な空間を楽しめる場として、オフィスワーカーやカップルなど幅広い世代が訪れました。
「船着場から見る日本橋もとてもきれいで、おすすめスポットの一つです。またこうしたイベントも仕掛けていけたら」と福島さん。歴史ある街の魅力を次世代へつなぐため、地域を巻き込んだ取り組みは続いています。
今回の橋洗いに参加した保存会会員が語る、名橋「日本橋」に寄せる思い
名橋「日本橋」保存会の一員として橋洗いに参加した野村證券株式会社(以下、野村證券)の皆さんにも、日本橋への思いや、この活動に込める願いを伺いました。
「改めて、いろいろな人に支えられながら愛されている街なんだと感じました。街を思う人たちがいるからこそ、こうした活動が続いてきたのだと思います。歴史ある橋を磨くことで、普段お世話になっている場所への感謝を表すとともに、今後の仕事にもつなげていけたらと思います」(田中さん)
「日本橋は仕事でもプライベートでも行き来していますが、昔の商人たちが歩いている姿を思い浮かべながら歩くことができる、特別な場所だと感じています。東海道五十三次の起点となった歴史ある場所で、今年も橋洗いに参加できたことを光栄に思っています」(小林さん)
「歴史を積み重ねてきた先人の方々への感謝を込め、これからのさらなる繁栄を願いながら磨きました。私たちの会社だけではなく、さまざまな企業の方々と一緒に取り組めること、そのつながりを感じられたことも良かったと思います。これからも愛される日本橋であってほしいですし、私も微力ながら、少しでもきれいにしたいという思いを込めて参加しました」(深浦さん)
第54回名橋「日本橋」橋洗い
開催日時/2026年7月26日(日)9:00~11:00 ※例年7月第4日曜日開催
参加/名橋「日本橋」保存会の会員のみ
●名橋「日本橋」保存会HP(https://www.nihonbashi-meikyou.jp/)
●日本橋学生工房HP(https://nihonbashigakusei.wixsite.com/kobou) Instagram:@nihonbashi.gakuseikoubou(https://www.instagram.com/nihonbashi.gakuseikoubou/)
(クレジット)
写真/チバユウコ 取材・文/河西みのり
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